《MUMEI》

「目が覚めましたか?」


混乱する私の目の前に現れたのは、一人の男性でした。


「あの…」

「ここは、病院です。あなたは屋敷の前で倒れていたのですよ」


淡々と、その方は説明し、私のベッドの横にあった椅子に座りました。


「小早川(こばやかわ)家の使用人の晴香さん…で、間違いありませんね?」

「は…い」


私は確かにあのお屋敷の


小早川家の使用人でした。

「では、『あの日』。何があったか覚えていらっしゃいますか?」


『あの日』


その言葉に、私の体は震え始めました。


その方は


後からきた警官に『警部』と呼ばれた方は、ため息をつきながら続けました。


「神田(かんだ)櫻が行方不明の今、事件の真相を知るのはあなただけなのですから」


櫻が…行方不明…


「きっと、櫻はもう死んでいます」

「どういう事ですか?」

「それより、昭人様はどうなったんですか?」


私の言葉に、警部さんは明らかに不機嫌になりました。


でも、私は『血まみれだった』昭人様がどうしても気になっていたのです。

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