《MUMEI》

『櫻がいなくなれば、あの三人も、喧嘩をやめるでしょう』


そう言って、大奥様はお休みになられました。





「…」





「晴香さん?」





「…」






「晴香さん」





「わかって…います」


頭では、十分過ぎる位わかっていました。


警部さんが知りたいのは、…この先の事だと。


警部さんが言った『あの日』とは、この翌日なのですから。


でも…


「…」


言葉が、出てこないのです。


出てくるのは…


「…っ…」


涙ばかりなのです。


『あなただけでも、お逃げなさい』


大奥様…


『櫻がいないこの屋敷にもう意味は無い

俺は、櫻を探しにいく』


昭人様…


「警部。今日は、もう…」

いつの間にか来ていたお医者様が、私を見つめてそう告げました。


どうやら、警部さんの後ろの警官が、お医者様を呼んでくださったようで、肩で息をしていました。


「す、み…ませんっ」

「…」

「また、来ますからね」


警官は、無言の警部さんを引っ張りながら部屋から出て行きました。


私は申し訳無くて、更に涙が止まらなくなりました。

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