《MUMEI》
女の弱点
麻美と彩は、たなの部屋に入った。三人は小声で話した。
「麻美、彩、その魔人の風貌を詳しく覚えているか？」
「はい」麻美が答えた。「とにかく大きさからいって人間ではありません。真っ黒な体で、特徴は長い舌を二本出していました」
「いえ、五本でした」彩が言った。
「何、五本じゃと！」たなの目が光る。
「お師匠さま。心当たりでもあるのですか？」
麻美の問いに、たなは顔を曇らせた。
「まさかな」
二人は、逸る気持ちを抑えきれない。
「お師匠さま」
たなは、おもむろに語り始めた。
「真っ黒な巨体に五本の舌。もしかしたら、ドエス魔人かもしれぬ」
「どえす魔人？」麻美は首をかしげた。「どえすとは、どういう意味ですか？」
「今の時代の言葉ではないようだ。いわゆる意地悪魔人とでも言おうか」
「意地悪魔人？」
今いち、たなの説明ではわからない。
「二人ともよく聞きなさい。私の推測に間違いがなければ、おまえたちが遭遇した者は、色魔界の怪物、ドエス魔人だ。たまに人間界にやって来ては、おなごを襲う」
「許せない！」麻美は剣を握りしめた。
「魔人は時空を超えてどの時代にも出没する。美少女、あるいは美女しか狙わないふとどきな輩じゃ」
たなは二人を見た。
「おまえたちは対象内じゃ。十分気をつけるように」
「冗談ではありません。私が一刀両断してみせます！」
麻美が目を怒らせると、たなが止めた。
「待ちなさい麻美。敵を知ることは重要じゃ」
たなは、さらに話を続けた。
「魔人がなぜ舌が五本あるか。これには意味がある。まず四本の舌で手足をぐるぐる巻きにして無抵抗にし、残り一本の舌でおなごの弱点を攻め、虜にする」
「ばかな！」
麻美が赤い顔をしてまくし立てた。
「敵に対しての怒りが猛ければ、虜になどされるはずがありません。そういう女は、初めからそのような弱さや願望があるものです」
純粋な麻美が眩しい。彩は麻美よりも七つばかり年上の大人の女。だから女体が正直なものであることも十分承知していた。
しかし麻美は反論を続けた。
「いいです。この私が証明してみせます。あんな化け物なんか汚らわしいだけだし、万が一捕まって攻められても、居眠りしてやります」
たなは笑った。
「ははは。寝られた日には、さすがのドエス魔人も蒼白になるであろう」
「笑いごとではありません！」
「すいません」
師弟があべこべだ。
麻美は作戦を語った。
「あすの朝。魔人が出没した近くの川へ行き、裸になり、泳いで奴をおびき寄せます」
「無謀だわ！」彩が反対した。
「あのときは手足を縛られていたから何もできなかったけれど、動きは鈍かったし、恐れる敵ではありません。秒殺できるでしょう」
麻美には気負いが見える。
「待ちなさい麻美。どうしてもと言うならば止めはせんが、もう少し作戦を練ろう」
「はい」
立ち上がりかけた麻美は、すわり直した。

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