《MUMEI》
泥棒?
「お前の家……じゃないよな?」
「うん。違う」
 言いながら、ユキナは当然のようにその家の庭に入り、手近な石で窓を割った。
「ほら、開いたよ」
ユキナは先に中へ入り、手招きした。
「開いたよって、お前―」
まるっきり泥棒じゃん、と言うと彼女は笑って答えた。
「こんな状況で、犯罪も何もないでしょ。そんなこと言ったら、今はこの街の住人全員が犯罪者」
「……確かに」
 仕方ない、とユウゴも家の中へ入る。
「えっと、洗面所はここだね」
 ドアを開けて確認し、ユキナが言った。
「ついでに服も着替えた方がいいよ。ひどいよ、その恰好」
 ユウゴは洗面台の鏡で自分の姿を眺めた。

確かにひどい。
 あの爆発のせいで体中ドロドロだ。
「ついでにお風呂入ったら?」
「……風呂入ってる時に襲われて裸で死んだら、一生の恥だろ」
「その時は笑ってあげるよ」
「そしたらお前が死ぬまで呪ってやるよ」
「……やめてよ」
 ユキナは本気で嫌そうな表情でそう言うと、洗面所から出て行った。
 ユウゴはそれを見送ってから、顔に水をかけた。
「いって〜!」
顔の傷にひどくしみた。
 できれば洗顔フォームで洗いたかったが、やめておこう。
 ユウゴは顔に力を入れて、一気に水をかけた。
「あ〜、いて〜」
「はい、着替え」
 声と共に後ろから服が飛んできた。鏡にユキナが映っている。
「これ、どっから持ってきたんだ?」
「二階にあった。この家の息子のだろうね」
「ふーん。ま、なんでもいいけど」
 ユウゴはボロボロになった服を脱ぎ捨てた。
 急に脱ぎ始めたユウゴを見て、ユキナは慌ててその場から離れる。

 Tシャツのサイズはピッタリだったが、ジーパンの丈が短い。
「なんだよ、こいつ短足か?」
 ユウゴはジーパンは諦め、元の自分の物に履き直した。
お気に入りのジャケットは捨てられない。念入りに汚れを叩いて再び袖を通す。

「おい?」
 着替えて洗面所を出ると、ユキナの姿がない。
「あれ、どこ行った?」
「こっち、こっち」
ユウゴが声のするほうへ行くと、そこはキッチンだった。
ユキナは冷蔵庫を覗いている。
「何やってんの?」
「見てわかんない?食料探してんの」
 冷蔵庫に顔を突っ込んだまま応えた。
「……もう、なんでもありだな」
ユウゴは椅子に腰掛けた。
「だってお腹減ったし。コンビニもやってないんだよ?食料確保も生き延びる為に必要でしょ」
「ま、確かに。で?なんか食えそうなものあった?」
「ん〜、生野菜とか生肉とかが多い。あと、冷凍食品とか」
「……冷蔵庫だから当然じゃね?」
「あ、そうね。でも、とりあえずチーズとソーセージ。あとヨーグルトとプリンがあるよ。はい」
 ユキナは冷蔵庫から取り出した物をテーブルの上に置いた。
「で?持っていけそうな食料は?」
「今から探すってば」
「ああ、じゃ、がんばれ」
 ユウゴはソーセージを食べながら言った。
「……手伝おうって気は?」
「ない」
「あっそ」
 ユキナは言いながら、棚を手当たり次第に探っている。意外と楽しんでいるようだ。
「あ、お菓子と菓子パンがあったよ」
「そう。じゃ、そろそろ行くか」
「ちょっと待ってよ。わたし、まだ何も食べてないし」
「じゃあ、早く食えよ」
「……あんた、性格悪いね。モテないでしょ?」
「うるせえな。ほっとけ」
 ユキナが食べ終わるのを待って、二人はその家を出た。

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