《MUMEI》

コンクリートの壁のアパート。無駄な物は一切排除されている。

入って直ぐにスプリングが硬いステンレス製ベット、後は棚と箪笥。

棚には包帯と教科書、生活の中で必要な物。
服は、制服しか持っていない。

小さな冷蔵庫には水のみ入れている。



斎藤アラタは極度の潔癖である。
食事も昼休みには取らない。カロリーメイト等固形食品やサプリメントを鞄に詰めて、空いた時間と人目を見計らって、小分けにして食べる。




いつもどおりに晩御飯は適当な鞄に詰めている物で済ませた。
玄関入ってすぐにある浴室(トイレが真横に設置されているユニット式)で身体を流して新しい制服に着替えた。

食事なんて、彼にとっては身体を機能させるだけの生理現象に過ぎない。


彼が生きている理由は、復讐の為。






「……お帰りアラタ。」
新しい住所は皆が知っている(この場合の皆はまだ明かされてはいない)。

大体チャイムを鳴らさず入ってくる。

「会いたかったぁ、肌……触ってい?」

「…下さい、だろう?外から入って来たら、手を、洗いなさい」
間髪入れず顔に触れて来たことにアラタは不快感を感じた。

渋々離れた。あろうことか浴室へ、
「はあ。またか。」
戻ってくると、案の定続きが始まった。

我慢しなければ、

きっと彼なら拒まない。

死さえ受け入れたのだから

煩わしい
貴様の手も口も匂いも
判らないフリをしてやるから。
早く終わらせろ。

俺の物に触れるな

「30分だけ待ってやる」

「あは…、相変わらず躾が厳しいね。御主人様は」
時間で縛ってもねちっこい愛撫は止まない。
何度も、本当の名前で呼ばれた。
耳元で言われる。
「どうして、お前なんだ?」
違う、
似てるわけじゃ無い。


身体に這う手の動きに合わせて黒い蟲が見えた。
眩暈

記憶が、感情のスィッチが、ぷっつり切れる。

たまに起こる忘却。






―――窓にはまばゆい朝日
夢?夢でもいいや。

何も着ていない身体の事実さえ排除すれば昨日は今日だと思うだろう。

全て、洗い流せばいい

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