《MUMEI》

「千秋様……」



「黙れ」

急いで口を噤む。
一言そう告げると千秋様は黙々と僕の手首をマットの横に括り付けた。

「……タマは痛みでないと覚えられないのだな。
俺が何故お前を繋いだと思う?」

千秋様は鼻で笑って下さる。
僕は千秋様の笑う意味はまだよく理解できないけれど千秋様が嬉しいなら僕も嬉しいです。





「………………ッ」

千秋様はいつの間にかマッチで蝋燭に火を点していた。
ま、まさか。


「千守の悪い癖は、すぐ爛れさせることだ。蝋燭には蝋燭の使い方がある。」

千秋様の掌の中で炎が蝋を溶かしてゆく。

透明な雫が、一滴
膚に弾けた。


『…………ッ!』

不意打ちの熱さに身悶えてしまう。
我慢し切れずに僕の伸びていた臑から更に5センチ発毛した。
勢いはビールシャワーくらいの威力だ。

脇腹付近や、内側の腕、僕の弱い場所を千秋様は意図的に狙っているように思えた。
蝋を片手に見下し、片頬で笑って下さっている。


「口より躯の方が素直じゃないか?躯中の穴を溶かした蝋でコーティングしてやろうか、そうだな、先ずは臍から……」



「……ア、ツッ……!」

臍に滲む痛い熱さで僕の背中は毛の敷物がびっしりだ。


「タマ、痛いとは生きているということだ。肺と同様、皮膚も呼吸している。

分かるか?
馬鹿な貴様の脳にでも噛み砕いての発言だからな?」


「はひ……」

返事もままならない熱だ。


「先入観に捕われるな、痛みの先には何が見えるか……」


「ぎ、ギニャアアアア……」

乾いた蝋を爪を立てて剥がされた。
……痛い゛ 何も見えない だって倉庫は真っ暗だし今の僕は目も開けられないから……!
喉が裂けんばかりに絶叫する以外は出来ない。

「いらい……いたい痛いです……熱いです……っ」


「泣くな!」


「びっ……」

千秋様の人差し指と親指の間は僕の口にぴったり張り付き、塞ぐ。



蝋が顔に掛かる瞬間、僕は痛い熱さとは別の物を感じた。

千秋様は僕が未熟者だからご鞭撻してくれる。
僕が舌を噛まないように手で押さえてくれる。
千秋様の皮膚は同じ温かさで血は同じように生々しい味で…………痛いけど千秋様の痛みは熱は優しい……気がする。

感謝しなきゃ、
それが真の良好な関係ですよね……?

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