《MUMEI》
十人の少年
「今、何時?」
「一時過ぎ」
腕時計を見ながらユキナが答えた。
 プロジェクト開始からちょうど三時間。
 さっきもユキナが言っていたが、子の姿を全く見ない。あの横取り小僧を除いて……
「みんなどこに隠れてんだろうね?」
 ユウゴの思いを見抜いたかのようにユキナは言った。
「さあな。ま、隠れる場所はいくらでもあるし」
「だねぇ。わたし達もさ、さっきの家に隠れてた方がよかったんじゃない?」
「そう、でもないかも…よ」
ユウゴの視線は遠く先を見ている。
「なに?」
ユキナも目を細めてその先を見た。

 そこには十人ほどの人影が見える。
しかし、鬼なのか子なのかはまだ遠くてよく分からない。
「もうちょい近づくか」
「だね」
 二人は電柱や自販機、家の陰に隠れつつ、徐々に近づいて行った。
 ようやく声も聞こえる距離まで近づいた。
そして分かったことは、彼らは全員まだ十代であること、そして手に武器を持つ鬼であるということだった。

「よし、じゃあ今度はこの二軒。いいか?誰が見つけても勝手に殺すな。みんなが平等に数を減らすようにするんだ」
 リーダー格らしき少年が他の少年達を見回しながら言った。
「じゃ、別れて、行け」
 その言葉を合図に、彼らは五人ずつに別れて目の前に建つ二つの家へ入って行った。
「なんなの?」
「シッ。見つかるぞ」
 間もなく、二つの家からは激しい破壊音と怒鳴り声が響いてきた。
そして、それぞれ一人ずつ家から出てきて、玄関や家の裏など、家を監視するようにグルグル周り始めた。
 しばらくして、少年たちとは違う声の悲鳴がユウゴたちの耳に届いた。
 その声は必死に謝り、助けを求めている。

「おい!そっちはどうだ?」
 家から出て来たリーダー格の少年が、もう一方の家から出てきた少年達に聞いた。
「ダメだ、空振り。高下の方は一人?」
 どうやら、リーダー格の少年は高下と言うらしい。
「ああ。天井裏に隠れてやがった」
言いながら、一人の少年が、紐で縛った男性を蹴って転がしながら出て来た。すでに男性に意識はない。
「おい、殺してないだろうな?」
「ああ、まだ生きてるって。ほら」
 少年が男性の顔面を蹴り上げると、彼はうめき声をあげた。
 高下は頷き、少年達を集めた。
「で、次は誰の番だ?」
一人の少年が手を挙げる。
「よし、囲め」
 高下の号令に従い、意識のない男性と手を挙げた少年を中心に彼らは円を作った。
「殺せ、殺せ、殺せ――」
手拍子を加えながらコールが続く。
 円の中で何が起こっているのかよく見えない。
 コールが続く中、ザシュっという気持ちの悪い音が聞こえたかと思うと、その場にワッと歓声が響いた。
そして、「早く撮っちまえ。次行くぞ」と高下の声と、パシャっという機械音が聞こえた。
「よし、行くぞ!」
『おお!』
 力強い気合いを張り上げ、彼らは向こうの路地へ移動して行った。

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