《MUMEI》 追い剥ぎ深夜。 皆が寝静まった頃、麻美は一人起きて準備にかかった。 卑劣な女の敵である魔人を、麻美は断固許せなかった。 着物を着て剣を持つと、忍び足で外へ出た。 もうすぐ夜が明ける。魔人退治は早朝が最適だと麻美は考えた。 明るくなれば村人が出てくる。夜はほかの獣もいるので危険だ。 山犬でも出てきたらやっかいだし、夜の川で泳ぐのは勇気がいる。 麻美は川に着いた。辺りを見渡して安全を確認すると、大胆にも着物を脱いで裸になった。 「ふう」 剣には土と葉をかぶせて隠し、着物はわざと枝にかけて目立つようにした。 麻美は少し緊張したが、川の中に入り、泳いだ。 「……」 まだ魔人は現れない。 「まさか夜しか出没しないってわけじゃないでしょうね」 それとも想像以上に賢くて、すでに作戦を見抜かれたか。 麻美はしばらく川の中で待ったが、魔人は現れなかった。 村人たちが出てきたら作戦は中止だ。麻美は一旦川から上がった。 「あっ…」 麻美は構えた。魔人は出没しなかったが、代わりに山賊が現れた。五人いる。 「へへへ」 「上玉じゃねえか」 嫌らしい目つきで裸の麻美を見ている。麻美は胸と下を隠した。 「かわいい」 山賊が歩み寄る。麻美はわざと怖がり、哀願した。 「待ってください。お金はあります。お金で許してください!」 「金ねえ。いくらあるんだ?」 「着物に」 そう言うと麻美は、枝にかけてある着物に向かって走った。 腕を掴まれる。 「あっ…」 「着物を調べろ」 ほかの男たちが着物を調べた。 「金なんかねえぞ」 麻美の腕を掴んだ男が睨む。麻美は神妙な顔をしていたが、素早く腕を払うと、瞬時にかがみ、剣を掴んだ。 「動くな!」 皆は焦った。 「動くと一人死ぬぞ。いいのか?」 構えからして腕は本物。山賊たちはそう見た。しかし目の前の裸の天使を諦めるのは惜しかった。 「私は本気だ。ヘタな真似をしたら容赦なく斬るぞ」 一人の男が手で制した。 「まあ待て。物騒なものはしまいな」 「しまうわけないだろ」 麻美は額に汗が滲む。山賊たちはゆっくり動き、麻美を囲んだ。 「無益な殺生はしたくない。山へ帰ってくれぬか」 麻美に隙はない。ヘタに近づけば首が飛ぶ。 山賊たちはゆっくり後ろに下がり、麻美から遠のいた。 (諦めてくれたか) 力を抜いた瞬間、一人が握っていた土を投げて目潰し! 「しまった!」 麻美は慌てて剣を振り回したが多勢に無勢。あっという間に組み伏せられてしまった。 剣を奪われてはどうにもならない。喉もとに刃先を当てられた。 「さあどうする。命ごいしなければ容赦なく引くぞ」 男は剣を引く真似をした。 「待って」 「何だ?」 ここで死ぬわけにはいかない。あまりにも無念過ぎる。 「命だけは…」 「よーし」 剣を遠くへ投げると、山賊たちは麻美を押し倒した。 (どうしよう) 素手で五対一では勝ち目はない。やられてしまう。 (まずい) 追い剥ぎに哀願したところで、許してくれるはずがない。 いきなり絶体絶命の窮地に立たされてしまった。 山賊どもは乱暴に麻美の体を触りまくる。十本の手に犯されて生きた心地がしない。 ついに興奮した一人が麻美の上に乗り、危ない体勢に入った。 麻美は激しく抵抗した。乙女の純情だけは奪われてなるものか。 「おっ刃向かうのか?」 「それだけは…」 「ばかかおまえ。それがなけりゃ何があるんだよ?」 一人がまた剣を拾いに行った。掴むと麻美の喉もとに刃先を当てる。 「あっ…」 麻美は動きが止まった。もはや観念するしかないか。 師匠たなの言うことをもっと素直に聞くべきだった。今さら反省しても遅いが…。 「小娘。体と命とどっちが大事だ?」 「…命」 「よーし、いい子だ」 山賊は剣を放り投げようとしたが、手が止まった。林から出てきた黒い巨体を凝視している。 「何だあれは?」 前へ |次へ |
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