《MUMEI》

隊員は機敏に銃を振ってナイフをたたき落とした。
カキンと、ナイフが地面に当たって折れたのを横目で見ながら、ユウゴはその隊員のすぐ横を走り抜けた。
一瞬の間を置いて、背後からいくつもの銃声が連続して響き渡る。

 周りにいたはずの一般人たちはいつの間にか、一人もいない。
皆、どこかの建物へ避難したようだ。
当然といえば当然だが、あまりに迅速な行動だ。
過ぎ行くビルというビルは、すべての入口にはシャッターが閉まっている。
少し前までは避難する一般人に紛れ込んで逃げ出していたのだが、これではその手は使えない。

ユウゴは考えを巡らした。
背後からは執拗に弾丸が飛んでくるが、それ以外の攻撃をしかけてくる様子はない。
今のところ、他に武器はないようだ。
「これぐらいなら、なんとか……」
この逃亡生活の中で何度こんな目に遭ってきただろう。
一体、何人の無関係な人間を巻き添えにしてきただろう。
さっきのデパートでもまた犠牲になった人がいた。
しかし、今のユウゴは罪悪感を感じることも自責の念に駆られることもなかった。
自分が生き延びることができるのならば、誰を犠牲にしても構わなかった。
ただ自分のことだけで精一杯なのだ。

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