《MUMEI》
懐かしさと少々の未練を連れて・・・
 一日に、片手で数えるほどしかないバスに乗り、俺は適当に座席を選び重たい腰を下ろした。
 座席は固く、座り心地は最悪。座ったと言うのに疲れはとれるどころか変に腰を痛めてしまいそうで、あまりいい気はしない。
 顔を顰めると、人のあまり詰まっていない車内を眺めてみた。自分の座っている座席もそうだが、等間隔に色は褪せていてこれまでに数え切れないほどの人を運んできたのだろう。
 しかしいまはバスを利用する人は少ない、都会ではまだ見捨てられてはいないが田舎のこの町では廃れ、使うとしても爺さん婆さんだ。

 この町は嫌いじゃなかった。
 世間に呑まれ発展しようと躍起になっている可哀想なところから始まり、パン屋が妙に多いことや、その多くの店のパンのチョイスがダブっていて種類が少ないところも、駅で乗車券を切る駅員が世話好きなところも、世話焼き過ぎて喧嘩になりだすところも、時々目にするアスファルトの隙間から一生懸命に咲いているタンポポも、息が上がるほど長い坂も、その頂上から見える山に沈む夕日も、俺は嫌いじゃなかった。
 そう、嫌いじゃなかった。

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