《MUMEI》

帰宅するとすぐに夕飯の支度を始める。

「今日は誕生日だし、ちょっと頑張ってみよう」

自分の好きなものを三つだけ作る。それだけで一時間近く掛かってしまった。

「ああ、間違えて二人分作っちゃった」

分量を間違えたらしく、一人分多めに作ってしまった。彼女だけでは食べきれないので、ラップでもして明日にでも食べるしかない。

「はぁ、何でミスしたんだろ…」

コンコン

折角作った料理を片付けようと席を立った時、丁度玄関のドアを叩く音が聞こえた。

「…誰だろ? 友達にはあんなこと言ったから来ないと思うけど…」

考え込んでしまいそうになったが、もう一度ノックされたために玄関に向かった。

「はい、どちらさ…」

彼女はドアを開けて、そこに立っている人物を見た。

ずっと待っていた、アイツがそこにいる。

もう半ば諦めていた心に光が差し込んだ。とても明るい優しい光が。

「ただいま。待たせちまったな」

あまりに嬉しくて、声が出なかった。勝手に出てきたのは涙だけだ。

それでも彼女は頑張って声を出す。

「遅いよ、ばか…」

「おかえり、なさい」

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