《MUMEI》 ようやく気持ちを落ち着かせて広間へ戻ると、アンリ様はまだ窓辺で満月を眺めてらっしゃいました。 「大丈夫‥?」 僕の気配に気付いたのでしょう。 アンリ様はこちらを振り向いて心配そうな表情を浮かべています。 僕はなるべく悟られないよう、平然を装う事しか出来ません。 「御心配無く。──御代わりなさいますか」 アンリ様が頷かれたので、空になったカップを手に御側を離れました。 何事も無いかのように。 ですがやはり、僕の中では覚醒の予感がふつふつと起こり始めていたのです。 前へ |次へ |
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