《MUMEI》

『一人殺したら、何かもう、二人も三人も変わらないんですよね』


笑いながら、昭人様は喋り続けます。


普段口数が少ない昭人様がこんなに喋るのは、初めてで


私はただ呆然としていました。


『昭人…』


大奥様は、泣いておられました。


『四人目は、腹と胸を刺したら動かなくなりました。
ナイフが切れなくなったから、厨房から包丁を取り出しました。

その時、コックを見かけました。

櫻は彼女が作る料理が大好きで、出かける時に、いつも弁当を頼んでいました。

だから、今回も知ってるかと訊いたのに…

あいつも知らないと言った!

どいつもこいつも役立たずだ!!』


昭人様の笑顔は消え、いつの間にか鬼のような形相になっていました。


『私は知っていますよ』


大奥様は、優しく微笑みました。


『本当に!?』


途端に昭人様はまた笑顔になりました。


無邪気な少年のような笑顔に。

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