《MUMEI》
樹の頭上の風を裂き、シャトルが行き来する。
額に汗が滲んできた。
バドミントンはハードなスポーツだ、明日は筋肉痛覚悟で挑んでいる。
斎藤アラタは、時折零れた自分近辺に降るシャトルを拾う。包帯の乱れは感じられない。
樹は身体に疲労が拡がる。全力でコートの端々を駆けている。樹は急に脛の痛みを感じた。足を庇いながらの打ち合いで、大分相手側に分がある。
諦めて早々に負けたかったが、やたらギャラリーが多い。クラスの雰囲気も乱してはいけないと、相手があと一点で勝つ、というところで粘る羽目になる。
樹の脳裏に限界の二文字。 気のせいだ、気のせい
何度も繰り返し嘯く
立ち眩み。
打たなければ、
樹は、筋が張った肩を振り回すが
――――間に合わない
背後に動く気配
樹の上でシャトルが跳ねる。アラタが真後ろに詰めていた。
シャトルがネットを越えたように見えた。しかし相手側が打ち返したようだ。
振り向き様にアラタの顔、普段なら避け切れるはずだった。
前に倒れそうになり、体勢を直そうとし、互いの方向へ足が縺れる。
グラリ、とアラタごと床に突っ込んだ。
樹は床に膝、肘を付けて床に踏み止まる。
――――試合終了
アラタが樹の下敷きに
反射神経はいい。
樹は右手で頭を、左手で腰を支えてアラタのクッションになった。
激痛
樹がアラタを押し倒す姿勢
二人は、向かい合う。
屋上の
あの、白いまばゆさ
体育館にこだまするエコー
アラタの白い肌を徹底して隠す上下の赤い学校指定ジャージしか目に入らない。
言葉を発することに許可が必要だと樹は感じた。
このまま手足が焼け焦げても仕方ない、
だから、神の声を、聞かせて?
アラタの袖から覗く、手に嵌められた手術用ゴム手袋
樹の胸にアラタの持つラケットが当たる、
ソレを使って引き離されると同時に
樹にしか聞こえない音量で
「コロス」
今までに聞いた、どんな殺し文句よりも凄みが効いていた。
今までに聞いた、どんな甘い囁きよりも妖しく吸い込まれるようだった。
全身、鳥肌。
―――そうだ、アヅサを思い出す。あの絶対主君の、支配者の眼。
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