《MUMEI》
刻印
アンリ様が御目覚めになる時間。

ですが僕は、扉をノックする事を躊躇っていました‥。

昨晩の事を思うと、気兼ねしてならないんです。

ですが、挨拶も仕事の内。

しない訳には参りません。

やっとの事でノックをすると、中からアンリ様の御返事が聞こえてきました。

僕は恐る恐る扉を開け、深々と頭を下げます。

「昨晩は‥とんだ失礼を‥」

「?」

アンリ様はキョトンとした眼差しを僕に向けて、軽く首を傾げました。

僕が不思議に思っていると、アンリ様はベッドに御掛けになりながら、

「昨日の満月、綺麗だったよね」

何事も無かったかのように、そう仰ったんです。

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