《MUMEI》

ひとまず落ち着いた彼は買ってきたお見舞いを手に、部屋に入る。

「お、今日は遅いぞ!」

と、窓際のベッドから不服な声。

「わりぃな。ちょっと仕事が残っててさ」

謝りながらベッドの側に歩み寄る。

彼が側の丸椅子に腰掛けた瞬間に、彼女は上体を起こし、彼の持ってきた品を奪い取る。

「おいおい、食べ物に関しては貪欲だな」

袋に入っていた饅頭を掴みだし、それを食べながら睨んできた。

「だってお腹空いてるんだもん。それより、明日は遅れないでよ?」

彼は肩をすくめて笑う。

「それは分からないな?お前がもう少しおしとやかになれば、約束してもいいけど?」

すでに饅頭を撃破し、次のお菓子に手を出していた彼女は、また彼を睨みつける。

「むぅ…」

「どっちで悩んでるんだお前は…?」

呆れた様子でそう言う。

「そりゃ当然、次に食べるものだよ」

「まったく…お前ってやつは…」

ふふん、と彼女は自慢気に笑っている。そんな彼女が愛おしくなって。

彼も思わず微笑んだ。

それはまだ、彼女が元気だったときの事だった。

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