《MUMEI》
境界警備隊
「………マジで?」
 彼らが円を作っていた場所には、無惨に首を掻き切られた男性の死体が転がっている。その周りには大量の血だまり。
「ね、ねえ、今のって?」
 なるべく死体を見ないようにしながら、ユキナが聞いた。
「鬼も仲間を作って効率的に子を狩ろうとしてるっていうことだな。
今のは、少年鬼連盟ってとこか?」
「なに悠長に名前なんかつけてんのよ。
あいつら全員、楽しんで人を殺してた。見た?あいつらの顔。笑ってたのよ?」
「あんま興奮するな。でかい声だすと、あいつら戻ってくるぞ」
 ユキナはハッと口を押さえた。
「鬼がそのつもりなら、わたし達も人数集めてみたら?」
小声でユキナは言う。
しかし、ユウゴは首を振った。
「そんなことしたら鬼が喜ぶだけだろ。あいつらは子を狩ることが目的。人数は多ければ多いほどいい。
俺達は、鬼から逃げることが目的。まとまって行動すると命取り」
「……そうだね」
少し考えてユキナは頷いた。
「せいぜい二、三人で行動するのが限度だろ。それ以上は目立ち過ぎる」
「じゃあ、あと一人はオッケーなわけね」
「……まあな。あと一人、お前と違って使える奴が仲間なら心強いのにな」
「どういう意味?」
「別に。ほら、さっさと行くぞ」
片手を振りながら、ユウゴは歩き出した。
 憮然とした表情を浮かべながら、ユキナも続いた。

「あのさ、ちょっと、こっちって……」
 ユキナは顔を強張らせながらユウゴを見た。
「なに?」
「境界じゃないの?」
「そうだな」
ユウゴは平然と頷いた。
「そうだな、じゃなくて。なんでわざわざ危険なとこに」
「危険な地帯の方が逆に安全かと思って」
「……意味わかんないだけど」
「おっと、ストップ!」
ユウゴは立ち止まった。
そして、壁から少しだけ顔を覗かせる。
「あれが警備隊?ていうか、あそこに倒れてるのって何?……それに、この匂い」
 ユウゴの下から、同じように顔を出しながらユキナが言う。
 二人の視線の先にはズラリと一列に並んだ警備隊員が、兵隊のように銃を持って辺りを警戒している。
その周りに、人形のように転がっているのは数十人の死体。
 そして、辺りを覆っている、なんともいえない匂い。
それはきっと血の匂いだろうとユウゴは思った。 あれだけの死体が放置されているのだ、血の匂いや死臭が充満していても当然だろう。
「あれだけの人数が脱走しようとしたってことじゃないか?」
「えー、そう?」
「あ、見ろよ」
 言ってユウゴが指した先に、走ってくる人影が見えた。
その後ろにも数人の影が見える。
 普通に考えて、追う鬼と追われる子だろう。
 その追われている方がちょうど警備隊の前を横切ろうとした時、並んだ隊員たちが一斉に銃を構え、撃った。
 さらにそのままの勢いで飛び出してきた鬼にも警備隊は容赦なく発砲した。
子も鬼も、走っているポーズのままその場に倒れた。
 ここはまるで戦場の墓場のようだ。
「……安全?」
「じゃないみたいだな。見境無しかよ。たまんねえな」
ユウゴは眉を寄せた。
 その時、パンっという音と共に、ユウゴのすぐ横の壁が火花を散らした。
「なんだ?」と叫んだユウゴの声は、凄まじい銃撃の音で掻き消されてしまった。

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