《MUMEI》

彼女の容態が急変したと聞いて、彼はすぐに彼女の下に駆けつけた。

「あ、今日は早いね…」

いつもと違って弱々しい声。側にある椅子に座っても、土産を奪ってこない。

「ははっ…。何だ、今日はいつになくしおらしいなぁ」

どうしても、皮肉しか出てこない。もっと別の事が言いたいのに。

「そう? だから今日は早く来てくれたんでしょ?」

「ああ、だいぶ昔にした約束だな。覚えてるよ」

それで安心したのか、彼女は溜め息を吐いた。

「ちゃんと約束、守ってくれたね…」

彼は、もちろんだ、と自信をもって返す。

それを見て彼女は笑ってくれた。

彼はその笑顔を見て、どうしても、どうしても抱き締められずにはいられなかった。

「ねぇ、私の約束聞いてくれる?」

彼の胸にうずまりながら彼女はそう言った。

「今なら何でも聞いてやる。まぁ、無茶はダメだけどな」

「じゃあ、ね? もう、私は死んじゃうの。それは知ってるでしょ?」

微笑みながら彼女は言った。

「ああ、知ってる」

「だからね、すぐにとは言わないけど、私の事は忘れて欲しいの」

それから一瞬の間を置いて、彼は答えた。

「お前らしい、な…。いいだろう」

「よかった…。もし聞いてくれなかったら、私、成仏しなかったよ?」

「は、化けて出るのか?面白いじゃないか」

クスクスと笑いあう。

「ふふ…。これでもう思い残すことはないよ…」

「そうか、そいつはよかったな」

また静かな間が空いて。

「ねぇ、私たち、また会えるかな?」

しかし彼は即答で。

「ああ、また会おう」

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