《MUMEI》

「いらっしゃいま・・!?あ・・・。」
記憶からすっかり抹消しされていたあの時の男だった。
今夜は白いスーツ姿で、あの日とはまた違った雰囲気を醸し出している。
(なんか、ヤクザっぽいし・・・)
「佐倉くん。噂をすれば・・だね。」
店長が、雅の隣で小さく呟いた。
(ああ、店長が言って恐そうな人・・・。)
男は、雅の姿を見つけると、気のせいか少し表情を和らげて真っ直ぐに近付いてきた。
「雅。お前、今日何時に終わるんだ?」
(いきなり呼び捨てかよ!やっぱり嫌な奴かも・・。)
偉そうな男を見て、またそんな失礼な事を考えてしまう。
「え・・・っと、何様でしょうか?」
「さ、佐倉くん!?言葉!今、『何様』ってなってたよ!」
雅の言葉で、男の眉がピクリと動いた事に気付いた店長が、すかさずツッコミを入れる。
「・・・・・。」
正直、どうでもよかった。
相手の、偉そうな態度にちょっとだけムカついていたから。
(でも、まあ一応俺も大人だしちょっとは言い換えて。)
「失礼しました。どちら様でしょうか?」
「ああ、名を言ってなかったな。俺は一条嵩嗣だ。それで、お前は何時に終わる?」
何となく、男に笑われたような気がして雅は再び嫌な気分になった。
「一条さん・・。すみませんが、用件も告げずに、しかも仕事中にいきなり言われても迷惑です。今日も、まだ仕事があり・・」
「すみません!!遅くなりました。あ、雅さんもせっかくの休みなのにありがとうございました。」
はっきり断るつもりが、言い終えないうちに山内が相変わらずの大きな声で謝りながら入って来た。走って来たようで、額には汗が浮かんでいる。
山内は、21歳の体育会系な男だ。短く切り揃えられた髪は、最近伸ばそうと頑張っているらしい。爽やかな顔をしていて結構女の子にはモテている。
「・・・・。」
「あれ?皆で、どうしたんですか?・・・・あ、すみません!お客様がいらしてたんですね。失礼しました!!」
勢いよく、お辞儀をすると山内は着替えのためバックヤードへと姿を消した。
「休日出勤は、もう終わりのようだな。着替えてこい。待っててやる。」
一瞬だけ、鼻で笑う仕種をして一条はまたしても偉そうに告げた。
「佐倉くん・・・。ごめんね。いつもみたいに、忙しかったら引き止められるんだけど・・・。」

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