《MUMEI》
孤独
「悪いな、いきなり来て」
「いや、全然悪くないし、それより、嬉しい、かな?」
金谷に持参したペットボトルを渡すと笑顔で受け取った。
俺はテーブルにあったリモコンで何気なくチャンネルをいじりだす。
普段テレビなんて見ないもんだから何を見たらいいのかわからなくて、溜め息まじりに結局元の訳の分からないドラマに戻した。
「勇樹にもバイトない日ってあったんだな〜、なんかいっつもバイトしてるイメージあったっつーか、あ、DVDあるけどそっちにするか?」
金谷は俺が持参してきたスナック菓子をがさがさと開け広げながら言った。
「あ〜なんか面白いのあんならそっちが良いかな、つか、俺週一休みあるし、言ってなかったっけ」
「聞いてないね、全く、全然、つか、勇樹って自分の事あんま喋ってくんねーじゃん、聞いてもウザそうな顔するし」
金谷は大きな体を丸めながら低い位置にあるデッキにDVDをセットしだす。
金谷もかなり長身で水泳部で鍛えているせいか、羨ましい位がっちりしているが今日近くで見た修平は更に大きかった。
制服を掴み、少しだけ見上げた時、凄く抱きしめられなくて、堪らなかった。
無言で俺から去って行く修平。
切なくて
息が苦しくて
訳が分からなくて
呼び止める声も
出す事が出来なくて
全ての細胞がことごとく反応しなくて
一人で家に居る事の出来ない恐怖感が久しぶりに湧きあがった。
俺は堪らず家を飛び出し、本当に、久しぶりに金谷の家に来た。
一年前に確か映画でやっていた恋愛ものが映りだす。
顔はわかるが名前が出てこない俳優、女優達…。
無言でじっと見ていると金谷はぽつりと言った。
「なんか、あったろ?」
「…………」
「たまには言ってみたら?ま、強制はしないけどさ…」
静かなシーン
多分泣けるシーン
だけどそれはちっとも、心に響かない。
上の空な気持ちに響くのはなぜか、金谷のスナック菓子を食べる乾いた音だけで。
「…聞いていい?」
「何なりと」
金谷はペットボトルを掴みゴクリと飲みだす。
「俺ってさ…」
一番、今一番気になっている事。
「うん」
今までウザったくて考えなかった類の事。
だけど、凄く気になって
「俺って、性的に魅力ある?金谷、俺に…欲情できる?」
「……」
「……」
絶対金谷は固まるかと思ったのに…
素早く抱きしめられて、唇を塞がれた。
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