《MUMEI》
宛て先不明
年端もいかない子供が殺されたと耳にすると、動揺する。他にも、俺を狂わせるキーワードは幾つかある。


斎藤アラタの事を意識していない、と言えば嘘になる。恐らく今まで目にしたどの生物より高潔だろうし、この例えは短絡すぎだが、彼は魅力的だ。

問題はそこではない


体育館で見せた
彼が自分に対する異常なまでの嫌悪、殺意。

きっと、いつかは人間は死ぬ。 理由があるなら、斎藤アラタに殺されるのは仕方ないかもしれない。

恐ろしいのは、
そこでは無い

精神が追い詰められ、正気を保つことが出来るのか、自身が無い。
理性のギリギリまで追い詰められ、何もしないでいられる、と胸を張れるのか?
これまでは何も起こさずにいられたが、少なくとも、斎藤アラタと対峙し、どの場面、状況でも…
俺の中で平静でいた試しは無い。






「お疲れー、今帰り?」

「ああ、若菜はこれから部活か?」

「そーよー、マネージャーは忙しいの!」
若菜は大量のタオルを小脇に抱えている。

「持って行こうか?」

「いい、いい!先輩達に冷やかされる!」

若菜の所属する男子柔道部はマネージャーが彼女唯一人、部員達には随分と可愛がって貰っているようだ。
「そ、そ、先輩達は冷やかしちゃうよ〜?」

「ハル先輩!」

若菜の真後ろに我が校の生徒会長であり、柔道部部員の中林春道先輩がいた。

「若菜にエロいことしてたんじゃないのか?え?」
先輩は俺を肘で突く。
「浮気は駄目だぞ?
いくら若菜に色気が足りなくて、溜まってても、体育館でダンスィ〜を襲うなんて!」

「違います、事故です事故!ホラ、さっさと走り込み行きますよ!」
若菜は中林先輩を促す。
「樹、じゃあまた明日ね!」若菜は、手を振る代わりに、零れんばかりの笑顔を奮った。

鬱な気持ちが少し晴れた。彼女達に、感謝だ。


靴を履こうと、下駄箱に指を伸ばす。

靴と別なモノが触れた

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