《MUMEI》
・・・・
 人物が男なのか、女なのか、それを判別することはできない。なぜならそいつは仮面を着けているから。
 手には一本の剣。
 場が凍りつく。時間が止まったかのように誰一人として動くものはいない。
 宙に幾つもの光の筋。それに続き縛られた罪人たちが自由をとり戻す。切られた縄は重力に負け、音をたてて台に落ちる。
 呪縛から解放された三人も何がどうなっているのか理解できず成り行きをただ見ることしかできない。
 「あ、あなたは」
 小さくもらした少女。しかしその問いに答えてはくれなかった。
 兵士が介入者を見過ごすことはない。しかし思いは身体に伝わらず、身体の自由が利かない。頭では分かっている、それでも本能はそれを許さなかった。
 見えない力が兵士を停止させる。それは威圧か、不思議な力か。
 おそらくは前者。その者の存在は辺りを飲み込み、呼吸をすることすら容易ではない。
 「・・・そやつらは罪人だぞ。わかっていてその様な愚行を働いているのか」怯み後ずさる神官。開いた汗腺からはおびただしい量の汗が流れる。
 「・・罪人か・・ならこの罪人の命は私がいただく」
 仮面越しに男と思われる声が聞こえる。
 助かるの?その言葉が頭の中で回り続ける。死を受け入れた少女の心にかすかな光が射してくる。
 「そのようなこと許すとでも思うか。やつらを捕らえよ、仮面の男もだ」
 引き連れた兵士に指示を出す。しかし兵士たちは声を洩らすだけで一向に動かなかった。
 「なにをしている」急かす神官。
 「彼らも馬鹿ではない。限りある命を自ら終わらせるような真似はしない、捕まえたいのなら自分が動いたらどうだ」
 鼻で笑い挑発する。
 神官は思いどおりにならない兵士たちに怒りが沸き起こり怒鳴り散らす。
 「何をしているこれは命令だ。貴様らは私の指示に従えばよいのだ、あの男を殺せ」
 怒鳴られたことで動き出す兵士たち。
 近寄ってくる兵士たちを気にもせず、神官を見たまま仮面の男が三人に声をかける。
 「後ろの道をあけておいた。ここは私に任せて走れ、いいな」
 「そ、それって」
 急なことに戸惑う三人。
 言い終わってすぐ、戸惑う三人に構うことなく煙幕を放った。

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