《MUMEI》
・・・・
 「ちっ、もう行こうぜ。気分がた落ちだよ」
 顔を歪め、悪態を吐きながら立ち上がった学生の一人を見るとそれに釣られるように周りの学生たちも緩慢な動きで腰を上げ始めた。
 「はぁ〜あ。うぜぇったらねえよなあの野郎、何様のつもりだよ」
 ぽつぽつと俺へと小言を漏らす。
 当たり前だが、こんなことで逆上する俺じゃあない。大人らしく、オトナな対応をするのが正しいだろう。
 「ゴミはしっかりゴミ箱へ入れるんだぞ、間違っても放りっぱなしってことだけはするなよ」
 案外素直なんだな。正直そう思った。こいつらも捨てたもんじゃない、きっと真摯に接すればこいつらもそれに応えてくれる。
 楽観したのが俺のミスだった。ランク付けが『ガラの悪い糞ガキ』だったものが『素直な純情学生』へと脳内変換されてしまえば、俺の口はどんどん動いていく。
 「ゴミの分別も怠るなよ、ペットボトルのキャップは外して、欲を言えばラベルも外すように。
散らばった食べカスも店からホウキを借りてきてしっかり掃くんだ。店の前はお前たちのために用意されてるわけじゃないんだ、町の人みんなで清潔に、譲り合いの精神だ」
 得意げに話していた俺は気づいていなかった。学生たちが動きを止め、胡乱な瞳で俺を見据えていることに。
 俺の頬へと学生の拳が飛んできた。
 俺は不様にそれを受け鈍い痛みが襲ってくる。
 頬はジワジワと熱を持ちはじめる。
 「調子こき過ぎなんだよ、くそ野郎が」
 「これだけで済ませてやるんだ、両手上げて喜べよな。俺ら切れさせてそれで済むんだ、三億円当てるのと同等のキセキだからな」
 そんな言葉を残して『ガラが悪くおまけに手まで早い糞ガキたち』は路上に唾を吐き散らしながらコンビニを後にしていった。

 「・・・・・はぁ。。。」

 広い駐車上に一人立ちつくし、赤く腫れ上がった頬を労わりながら溜め息を吐くことしかできなかった。
 コンビニ内からの視線が痛い・・・・。

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