《MUMEI》
最悪のシーン
(…殴りたい)


(蹴り飛ばしたい)


俺は今、試練の時を迎えていた。


今日は、七月十日。


ただでさえ、この後、部活が終わってから頼と高山家に行かなければならないのに


今日は、体育館のステージ練習の日で


しかも


俺にとっては最悪のシーンの練習だったのだ。


『抵抗したら、何回でもやり直すからね』


夏になり、それまで穏やかだった相田先生も徐々に厳しくなってきていた。


それに、今年は部長と…


坂井も、意外にうるさかった。


『やっと二人きりになれましたね』


そう言って俺


静の前に近寄って来るのは

頼が演じる


男色家と評判の変態


間宮男爵だった。



『約束…守って下さいね』

『もちろんです。あなたが大人しく私の物になって下さるのなら、いくらでも出しますよ』


そう言って、男爵は静を抱き締めた。


静の父親は事業に失敗し、多額の借金を抱えていた。

男爵は静との『結婚』を条件に、その借金を全額支払うと申し出たのだ。


何故男の静が、男の男爵と『結婚』出来るのかと言えば


『本当に、女装がよくお似合いで』


…頼は、俺を舐めるように見つめた。

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