《MUMEI》
銃撃戦
ユウゴはたまらず、その場に伏せて頭を抱える。
ユキナも同様に俯せになり、目を閉じている。
しかし、しばらく待っても銃撃は止むどころか、さらに激しさを増してきた。
どこを狙っているのか、弾の着弾点はまばらだ。
「おい、立て!逃げるぞ!」
一瞬の隙をついて、ユウゴは立ち上がり、ユキナを引っ張った。
「ま、待って」
ユキナはよろけながらも、必死に立ち上がった。
ユウゴはユキナの手を引っ張りながら、その場を離れる。
どうやら、弾は二人に向けられたものではないようだ。
ユウゴたちが移動した後も、銃撃は続く。
状況を知りたいが、今戻っても巻き込まれるだけである。
ユウゴはほどよい位置に建つ雑居ビルに目を止めた。
てっぺんに柵が見える。屋上があるようだ。
「上がるぞ」
ユキナの返事を待たずに、ユウゴはビルに入った。
入ってすぐにエレベーターのボタンを押すが、反応がない。
もう一度押してみるが、やはり反応はない。
「あそこ、階段があるよ」
ユキナの声に、ユウゴは「しょうがねえな」と応えながら、階段への扉を開けた。
「高層ビルじゃなくて助かったね」
階段を駆け上がりながらユキナが言う。
このビルはさっきのエレベーターの表示板から十階建てとわかっている。
そうじゃなければ、他のビルを探していただろう。
しかし、たかだか十階といえどかなりきつい。
ようやく一番上に着いた時、二人は大きく息を切らしていた。
「まだ、続いてるね。外」
ユキナがとぎれとぎれに言う。
「一体、なんだろうな」
言いながら、ユウゴは屋上へのドアに手をかけた。
しかし、ノブはガチャガチャ音をさせるだけで動かない。
仕方なく、ユウゴは力任せにドアノブを蹴り、壊した。
「あ、器物破損」
横でユキナが言ったが、無視することにした。泥棒に言われたくはない。
屋上に出ると、さっきまで聞こえていた銃撃の音に加えて、人間の声も聞こえてきた。
しかし、それは悲鳴ではないようだ。
ユウゴはユキナと顔を見合わせ、そっと柵へ近づいた。
「なんだ、あれ?」
下の様子を確認したユウゴが素直な感想を述べる。
「さあ。なんかわかんないけど、頑張ってるね〜」
ユキナが言う。
頑張っている。たしかに頑張っている。
しかし、その頑張りはこのプロジェクトと呼ばれるゲームに向けられたものではない。
さっきまで二人がいた位置のすぐそばで、警備隊と同じくらいの人数がどこで手に入れたのか、警察が持っている盾を前に隊列を組んでいる。
そして、向かい合った警備隊を攻撃しているのだ。
また、驚くことにそのほとんどの人間が武器を持っている。
「あれって全員、鬼?」
「でも、武器のない奴だっているぜ?」
武器を持っていない者は盾で仲間をガードしている。
たまに、何か怒鳴り声が聞こえるが、他の音のせいでよく聞こえない。
仲間が銃弾に倒れれば、彼らの陰に控えていた救護係らしき数人が駆け寄って行く。
対して、警備隊は一つの乱れもなく応戦している。仲間がやられてしまっても全く気にしていない様子だ。防御はなく、ひたすら撃つばかり。
呆気に取られてその様子を見ていたユウゴは、先頭に立って警備隊を攻撃している者の顔を見て思わず声をあげた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫