《MUMEI》

 ユウゴは走りながら前方にガソリンスタンドを発見した。
給油中だったのか、車が数台止まっている。
そのうち、一台は運転席のドアが開きっぱなしだ。
視線を走らせるが、その周辺に人の気配はない。

ユウゴは後ろの様子を確認してみる。
追撃隊たちとは少し距離があいていた。
ユウゴは地面を蹴る足に力を入れてスタンドに走り込んだ。
そして急いで車の中を覗き込む。
古いタイプの車らしくキーが付けられたままだ。
「よし」
ユウゴは思わず声を出しながら運転席に乗り込み、キーを回した。
エンジン音が軽快に響く。
ユウゴは一気にアクセルを踏み込むと、姿勢をできるだけ低くし、追撃隊へ向けて走らせた。
 追撃隊たちは立ち止まって銃撃を続ける。
何発かがフロントガラスやボンネットなどに命中したのが衝撃でわかった。
それでもアクセルを踏み込む右足の力を緩めず、ユウゴは猛スピードで追撃隊たちの間を走り抜けた。
二、三人がボンネットに乗り上げ、人形のように跳ね上がる。
直後、後方から何かが爆発する音と振動が伝わってきた。
バックミラーを見ると、スタンドから真っ赤な炎が上がっていた。
おそらく、流れ弾がガソリンのタンクにでも当たったのだろう。
ユウゴは無表情にその炎をミラー越しに見つめると、その場から走り去って行った。

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