《MUMEI》

欄チャンはその液体を無意識の内に流していたようで、気が付くとすぐにそれを拭った。


そしてベットにもたれて小さな声で呟いた。


「何で涙が出てくるんだろ……」


そう言った後欄チャンは両手で目を覆い、また涙を流し始めた。


暫くすると欄チャンは、ポツリと言葉を零した。


「葵ね、金本くんのこと好きなんだって」


僕からは欄チャンの表情は見えなくて暗闇の中、欄チャンの背中だけを見つめていた。


欄チャンの心の声は、よく聞き取れなかった。


欄チャンが強く思っていることは1つではなくて、ある心の声を聞こうとすると他の声が邪魔をする。


たまに聞き取れる声は自分を卑下する言葉や悲しみを意味する言葉だった。


葵チャンは欄チャンの1番大切で信頼できる友達。


そんな親友の好きになった人は、欄チャンが初めて好きになった初恋の人だった。


ねぇ神様?


どうして欄チャンにそんな意地悪ばかりするの?


悲しみに暮れる欄チャンの背中を見つめながら、僕はただ神様に問いかけることしか出来なかった。


それから1ヶ月が経ち欄チャンは答えが出せぬまま、金本くんに対する恋心と葵チャンに対する罪悪感を募らせている。


欄チャンが最近よくため息をついている原因のもう1つは、葵チャンのことだ。

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