《MUMEI》
変わり果てた町
 スピーカーから流れるメロディは陽気な調子で、それがなくても活気に満ちている恋人たちや家族たちの、浮足立った足取りをさらに軽やかにさせている。
 笑顔に満ち、さまざまな声が行きかう。
 二階のフロアで佇んでいる俺は独りで場違いな気がしてくるが、どうでもいいことだ。
 孤独なのはずっとまえ、彼女と別れたころからだ。
 もう慣れてしまった。

 ぐぅ〜・・・。

 腹の虫が空腹を訴えて来て、気づく。そう言えば朝は急いでいたから何も食べていなかったんだ。幸いここはデパートだ、食事をとる場所はあるだろう。
 「いただきます」
 手頃なファーストフード店に入った俺はハンバーガーとジュースを頼み、包みを開いた。体に良くなさそうなハンバーガーだが、なぜか嫌いになれないのがこれの良いところだ。金額も手頃、量もまあそこそこ、質はまあ・・・我慢しよう。
 けして大食いではない俺にはこれだけで十分で、ジュースが腹に入ればもう腹八分目になる。晩飯までは保つこと間違いなしだ。
 昔住んでいたというのに全くそんな気がしない、まるで別の町にきたみたいだ。この町で作った友人はいないし、近所付き合いもあまり気にしなかった俺にはこの町での知り合いはゼロに近い。
 こうしている今も、俺はただ孤独をより強く感じているだけだ。
 妄想も妄想に終わった。品揃えの悪さを誇るパン屋群は壊滅していて、見たことも無いようなブランド店がその跡地に建てられていた。

 想い出はきれいさっぱり消え去り、あの頃と同じ場所などひとつもない、名すら変わった町。俺の居場所はとうの昔に無くなってたんだ・・・彼女と別れた五年前に。

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