《MUMEI》
ウマの合わない二人
 メリルの声が震えていたことにも気づいてはいなかった。自分を守ることで精一杯だったから。
 泣き顔を見たことで逆上した気持ちが引いて行き、申し訳なさそうに謝る。
 「ご、ごめん。メリル、怒鳴ったりして」
 三人が黙り、路地裏に別の声が降ってくる。
 「うまく逃げられたようだな」
 顔をあげると屋根上に三人を助けた仮面の男が無傷で立っていた。あの数の兵士を相手に生きているとは思わなかった三人は驚きを隠せない。
 「あんた、生きてたのか」
 生きていることを不満だといわんばかりにファースは眉をひそめた。
 「・・すぅっ。ぐすっ、あなた、どうして私たちを助けてくれたの・・」
 助けてくれたことに感謝はしているが、助けた彼になんの利益もないことを考えると素直にお礼を言うことができず、質問していた。
 「なんだ、あのまま死ぬことを望んだか」
 「そんなことないわ、助けてくれたことに感謝してるわ――だけど」
 「私にメリットがないと、そう言いたいか。お前たちを助けたのは気まぐれだ、実益がなくて当然。もしあろうとお前たちは知らなくていいことだがな。
 ただ気まぐれついでに忠告しておいてやる。今夜にでもこの国から出ろ、生きたいのならな」
 仮面の男の上からの物言いが癪に障りファースは納得がいかず言い返した。
 「俺たちを助けたからって命令するな、てめえの言葉を聞く理由がどこにあるよ」
 馬鹿な男だと思いながら仮面の男は、
 「何度も言わせるなこれは忠告であって命令ではない、強制はしないさ。しかしお前たちはあらぬ罪状とはいえ犯罪者に変わりない、この国にいれば命を狙われることになる。拾った命を無駄にするなと言っているだけだ―――それじゃあな」
 言うと仮面の男は屋根から屋根へと飛び移り去っていった。
 「あ、待って。まだ聞きたいことが・・」
 他にも聞きたかったことが山ほどあったメリルは彼を止めようとしたものの、聞こえていないのか彼は止まらなかった。
 仮面の男の忠告を聞き、これからのことが不安になってきた二人は考え込んでしまう。
 「これからどうするんだよ、俺たち晴れて指名手配者だぞ。ブラックリスト入りだ」
 焦り出したファースはいい案を出してくれると思いメリルを急かす。
 「わかってるわよ、だから考えてるんじゃない」
 思考を邪魔され強くあたるメリル。叱られたファースはうめき声をあげ黙り込んだ。
 メリルの出す考えを待っているファースはクレアが口をもごつかせていることに気づき、どうしたんだと声をかけた。するとクレアは頭をあげ、
 「うん、あの人に助けていただいたお礼を言いそびれてちゃって・・」
 クレアのおとぼけぶりにファースはため息をつくことしかできなかった。

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