《MUMEI》

そうこうしてるうちに、携帯が鳴った。


蓬田の、携帯。



「…『西城先輩』からだぞ」



おれが言うと、



「…えっと、代わりに出てくれる??」



と蓬田が言うので、渋々通話ボタンを押した。



「…はい」


『あ、かなめちゃん??』



落ち着いた声。



「…どーも」


『久しぶりだね、なんか。…今日、大丈夫だよね??』


「…まあ、はい」


『よかった。…じゃあ、7時に駅前で。
―…楽しみにしてるね!』


「あー、はい」


『…えーと、じゃ、あとでね』


「…はい」



電話が終わった途端、どっと疲れた。


…「はい」とかしか言ってねえけど。


『西城先輩』と話してる間は、

蓬田って、こういう喋り方が好きなのかなとか、
こういう声が好きなのかなとか、


そんなことばかりを考えてしまった。



「…先輩、何て言ってた!?」



蓬田のこんな言葉で、すぐに現実に引き戻されてしまうのに。



「別になんも。
―…7時に駅前にって。楽しみにしてるって」


「…そっかあ…」



少し残念そうな、でも嬉しそうな蓬田。



蓬田の表情を、
こんなにすぐに変えられえる『西城先輩』はすげえな。



……なんで、それがおれじゃないんだろう。


―…なんて。

そんなの、答えは分かりきってるじゃねえか。




―…蓬田が、「西城先輩を」好きだから、だ。

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