《MUMEI》 先手思えば予知出来る範囲だったのかもしれない。 昭一郎が目の前に居る。 俺にあの頃は最大の過ちだった。昭一郎だって思い出したくない相手のはず。 「丸腰で一人で敵のアジトに乗り込むなんて無用心だな、まるで俺に触って下さいって言うようなものじゃない。」 目も合わせられない。 攻撃的になる。 最大の防御だからだ。 「裁判って大変だよな。」 「……訴えようっての?あんたの今の収入で……」 不意に襲い来る、あの感触。 俺が最中に幾度も隙を見計らっては奪った唇、舌の滑らかさ。 「違う、止め……!」 咄嗟に引き剥がし、 昭一郎を見る。 しかし、俺の唇にキスを仕掛けるなんて到底思えないくらいの目力で あの頃の美化された思い出と引けをとらない彼が居ただけだった。 「この、俺じゃ満足しないくらいに奔放に遊び尽くしたか?」 昭一郎がそんな口をきくと勘違いしてしまう、俺は許されていると。 「俺がどれだけ努力して上り詰めたと思ってんだ?」 「……そう。新しく店出すんだってな。おめでとう」 気が、抜けた。 彼は独自のリズムを保ち俺の緊張の糸を切る。 「餞別は?」 「……帰る」 背中を向かれた、逃げられる。 逃がすな。 前へ |次へ |
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