《MUMEI》

私は櫻


神田 櫻と申します。


父親は旅芸人


母親は、この街一番の富豪・小早川家の使用人


…だったそうです。


どちらも、私が生まれた時には既にいなかったので、聞いた話ですが…


私は、母親に似て生まれつき心臓が弱く


屋敷の使用人でありながら、役立たずなこの身を恨めしく思っていました。


そんな私に


お屋敷の人々は優しく


とても優しくしてくださいました。


『こんな立派なお部屋…使えません』


そう何度も申し上げたのに

『いいんだよ、櫻』


お優しい、旦那様


『そうだよ、櫻』


旦那様によく似た、お優しい、治人様


『お前は体が弱いからな』

無愛想だけど、お優しい昭人様


『…はい』


私はいつも、三人の優しさに甘えてしまいました。


少しでも役に立ちたい。


そう思って、何かしようとしても


『ここはいいわ。あなたは休んでいなさい』


そう、使用人の皆に言われてしまい


結局、役立たずな私は、ただ年を重ねておりました。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫