《MUMEI》

そういえば…


年を重ねる間に、奇妙な出来事がありました。


それは、突然の別れでした。


『…え? やめた?』


私の部屋に毎日お花を届けてくれていた庭師の源三(げんぞう)さん


彼が、旦那様の知り合いのお屋敷に移ったと聞いた時は、本当に驚きました。


…どうして?


『櫻の喜ぶ顔が大好きだよ』

『私も源三さん大好き』


そう話していたのに…


それは、源三さんだけではありませんでした。


次の年には


厨房にいた重行(しげゆき)さんが


また、次の年には


門番の太一(たいち)さんと康雄(やすお)さんが


更に…


『えぇ?』


何と、旦那様の執事の朔夜(さくや)さんまで


次々に、お屋敷から去って行ってしまいました。


そして気がつけば


私が十五になる頃には


小早川家のお屋敷には


男の使用人は一人もいなくなってしまいました。


大丈夫かしら…


心配する私を、旦那様・治人様・昭人様が慰めてくださいました。


でも…


『大丈夫だよ、櫻。櫻がいれば』


…どういう、意味でしょう?

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