《MUMEI》 隔たりは敷布団布団を正平は二つ敷いた。 あんなことに遭った後、とてもじゃないが同じ布団で眠るなんてできなかった。 昌は同じ部屋にある勉強机で、宿題をしている。 微かに卓上ライトで輪郭が映し出される。 「正平は、学校が好きなんだね?」 背中を向けたまま昌は口を開いた。 「母さんも好きだ?」 「……当たり前じゃない、学校は楽しいし、 母さんは優しいもん」 布団から正平は顔を少し出した、光が眩しい。 「学校なんて、必要ないんだよ。行かなくたって死なないじゃない。 母さんが居なくても、今まで何か変わったことが? 僕が掃除も料理も出来る 父さんの場合も同じかな」 「……兄ちゃん、どうしちゃったの?」 正平は、不安になり、上体を起こして昌を見る。 「正平、行こうよ」 「どこに?」 正平の腕を昌は掴んだ。 無理矢理立たされた。 昌は笑っている。 「行こうよ、兄ちゃんはこだまと正平が居ればいい、正平は兄ちゃんが好きだろう?」 「いやだ…… いやだよ、 離してよう……」 正平は腕が徐々に強く引っ張られていくのを覚える。涙が出てきそうになる。 「行こう?」 「行かない、どこにも行かない! 兄ちゃんなんか……、 兄ちゃんなんか……、 嫌いだ。」 正平は布団に潜った。 前へ |次へ |
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