《MUMEI》

はっとして先輩を見ると、
先輩は決まり悪そうにおれを見返した。


―…ヤバイ、やっちまった。何か言い訳しねえと…



「…ごめんね」



先輩が呟く。



「いや、あの、いきなりで驚いたっつーか、
なんつーか、その…」



おれが慌てて言うと、



「いや、俺が悪かったんだ。いきなりそんなの…驚くよね」



…よかった、何とかうまく収まりそう―…



「気持ち抑えられなくて―…
だから、ちゃんと言うよ」


「へ??」


「俺、かなめちゃんのこと好きなんだ」



―…ああ。
『先輩も蓬田のことが好きなんだ』

おれは、ちょっと絶望的な気持ちになった。



気持ち抑えられないってのは、おれも分かる。

…でも、何か展開がいきなり過ぎるんじゃ―…



「かなめちゃんは、俺のこと好きじゃない??」



上目遣いで訊いてくる先輩。


―…いや、蓬田はアンタのこと好きだけど―…


状況が状況だし…



「…キス、したいな」



おれを見つめてくる先輩。


…蓬田だったら、どうすんのかな。



『キスは、本当に好きな人としかしないって決めてるの!!』



蓬田の言葉が蘇る。



やっぱ、すんのかな…キス。



ぼんやりと考えていると、またもや先輩の顔が間近に。



「ちょ、ちょっストップ!」



おれは慌てて先輩の肩を押し戻した。



いくら蓬田が先輩のこと好きだからって、
おれが先輩となんてダメだろ、っつーか、無理!!



「…そっか、ごめんね」


「…いや、あの、嫌いとかじゃなく…!!」


「…いいんだ。ちょっと、ごめん。
―…頭冷やしてくる」



先輩はそう言うと、立ち上がって雑木林の方へ歩いていった。



…おれ、やべーことしちゃったかな。



でも、男とキスなんてまっぴらだし。



―…本当は、蓬田と先輩がキスすんのが
一番いやなんだけど。



…そうだ。



思い出して、おれも立ち上がる。


蓬田に電話しなきゃ。

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