《MUMEI》 消沈。そして銭湯へ休暇をとってやって来たと言うのに、わずかな楽しみも喜びもないこの旅行に心が折れてしまった俺は今日一日なにをして過ごしたのかさえ分からなかった。ただ呆としていただけかもしれなければデパートを意思の無いゾンビのように彷徨っていたのかもしれない。 とにかく気づけば夕方で、俺は町のどこかにいた。 「完全に迷っちまったな、どうすりゃいいんだ」 遅かった太陽の沈みも早まりはじめ、午後六時を過ぎればもう顔の下半分を隠し着実に夜へと向かい始めている。それだと言うのに俺の現状はまだ泊まる場所を決めていない、いままで何をしていたのか。数時間前の俺を怒鳴りつけてやりたいところだが、そんな現実逃避はするものじゃない。まずは夜を越す場所を探さないと。 知っていたはずの町を彷徨い歩き、とにかくホテルを探した。 結局ホテルは見つからず途方に暮れるしかなくなり、バックを地面に置き腰を下ろす。棒になってしまった足をさすり、疲れを軽減させようとして見るがあまり効果は期待できない。 そうなれば今度こそ現実逃避の時がやってきた。俺はこの秋へと移り変わった町で天寿を全うすることになるだろう。街路樹の葉が失せていくように、俺の命もまた同じように失せていく。きっとそうに違いない。 「・・・そうだ、最期の夜だ。せめてこの身だけでも清めておくとするか。たしか銭湯があったよな」 歩き続けて見つけた銭湯を思い出した俺は立ち上がるとバックを手に取り、鈍い足取りで道を戻っていく。 「それにしても、年は取りたくないもんだな。こうして歩いていると衰えを嫌でも思い知らされる・・・俺も二十八、そろそろおっさんだな」 自分ではまだまだ若いと粋がっていたものの、心とは違う速さで体は変化していくらしい。これも五年前では考えられなかったことだ。 「もっと運動しとくんだったな、これじゃあ恥ずかしいぞ」 体に言い聞かせ励ましてみるが、俺の体はそれに応える元気も無いみたいだ。ほとんど何も入っていないバックですら重たいと錯覚している始末だ、本当に俺はここで命尽きるかもしれない。 そんなことを考えながらも、やはり少しずつでも足は動いてくれて銭湯にたどり着くことが出来た。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |