《MUMEI》
いい関係
 神官ハイムの死去が街中に広がるのはすぐだった。そのなかでも犯人である仮面の男の噂は凄まじい勢いで伝わっていった。
 ざわつく街を歩くクレア、ファース、メリルの三人。
 あの場にずっと隠れているわけにもいかず、まずは宿を探すことにきめた。
 顔などを隠して歩くのは怪しいというメリルの提案で堂々と歩くことに。
 まだ不安がぬぐいきれないのかファースがきょろきょろとあたりをうかがう。
 「本当に大丈夫なのか、俺たちさっきまで・・・」
 気の小ささが垣間見えているファースをメリルは笑い飛ばす。
 「安心していいわ、いまは私たちよりあの仮面の男で街も兵士もいっぱいだろうし、逃げ出した子供のことなんて憶えてないわ。あの人インパクトが強烈だったから。ファースも結構怖がりなのね」
 処刑台に張り付けられた時、最も取り乱していた人物と同じだとは思えないぐらい、メリルは賢く活発な少女で、けらけら笑っていた。
 「な、何言ってんだよ。俺はただ最悪の場合を考えて行動してるだけで、怖がりなわけじゃない」
 こちらも打って変って全くの別人、ちょっとしたことで怯んでしまう姿はどこか子供染みた感じをみせていた。
 「あはは、そうね。その時はしっかり守ってね」
 嘘が下手だなぁと思いながらもメリルはそれ以上はいじらないであげた。
 「・・・あの人、ちゃんと逃げられたかな」
 けらけらと笑うメリルの後ろを歩くクレアが呟いた。こちらは仮面の男を心配しているようで、声からも本当に気にかかっていることが伝わる。
 クレアの呟きが聞こえたファースはクレアのほうを向き腹いせとばかりにいじめにかかる。
 「あいつか〜、いまごろ捕まって俺たちの代わりに処刑されてんじゃないの〜けっこう兵士多かったからな」
 「そ、そんなこと」
 そんなことないよ、そう言いたかったが途中で口ごもってしまう。
 いじめがいのあるクレア。もごもごしている姿を見て悪戯に笑うファースにメリルが軽く小突いた。
 「もお、止めなさい」
 痛いじゃねえか、といっているファースを放っておいて、クレアのほうを向きなだめるように続けた。
 「私はうまく逃げられたと思うわよ、あんなにすごいんだもの彼。きっと上手く逃げられたわよ」
 自分の代わりに気持ちを言ってくれたメリルにクレアはパッと笑いうなずく。
 「うんっ」
 楽しそうに話す二人の後ろでファースは一瞬暗い表情をしたが、その表情をすぐに笑顔に戻り二人の間に入って行った。
 三人は兄妹のような関係だった。妹を苛めて楽しむ弟に、それを止めてまとめる姉。そしてすこし天然な妹。そんな関係。
 それからずいぶん歩いて、三人はやっとのことで古びた宿を見つけた。
 宿の中はやはり外見と同じく古臭く、どこか湿気た感じが漂っていた。設置されているのも必要最低限のもので、どれも安価の家具で取り揃えられている。入ってきたファースたちを中年のおばさんが手を広げ歓迎してくれた。

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