《MUMEI》
由井
「なに、どうしたの?」
 ユウゴはユキナの声を無視して柵にしがみついた。
先頭に立って警備隊と闘っている男。その顔は見慣れたものだった。
「あいつ、何やってんだ?」
「あいつって、あの男の人?」
ユウゴの視線を追って、ユキナは言った。
「ああ。あいつ、大学の友達。由井っていう」
「へえ。ユウゴは大学生なんだ」
「いや、俺が言いたいのはそこじゃなくて」
「わかってるよ。なんで、大学の友達があの集団の先頭に立ってんのかってことでしょ?」
ユウゴは頷いた。
その時、下で爆発音が響いた。
「なんだ?」
「あれ」
ユキナが指したのは警備隊側。
 隊員達は全員が手に手榴弾を持っていた。
「鬼どもに支給してるぐらいだ。あいつらが持ってても不思議はないよな」
「あ!」
ユキナが叫んだ。
「なんだよ?」
「あの人が!」
見ると、なんと由井がさっきの爆発に巻き込まれたらしく、倒れていた。
「あ!おい、マジかよ」
ユウゴは反射的に駆け出した。
「ちょっと!ユウゴ!」

 ユウゴは来た時と同じように、階段を駆け降りた。
さっきの場所まで走ると、警備隊にやられた負傷者が建物の陰へ運ばれているところだった。
「由井!」
 その中に由井の姿を見つけたユウゴは、慌てて駆け寄った。
「なんだ、おまえは?」
 由井を運んでいた男が威嚇するように睨んできた。
「ああ、いいんだ。そいつ、俺の友達だ」
 男の背中から由井は力無い声でそう言った。
「おい、一体何やってんだよ?平気か?」
 心配するユウゴに笑って応えながら、由井は近くの中年男性に声をかけた。
「今日はここまでだ。引くぞ」
「わかった」
 男は頷くと走って行った。
「おまえも来いよ。話はそれからだ」
「あ、ああ」
 ユウゴが頷いた時、ようやくユキナが追い付いて来た。
「その子は、連れか?」
「ああ、まあ」
「じゃあ、あんたも一緒に来いよ」
ユキナはよく分からないまま頷く。

 由井達の一団は手際よく撤退の準備をすると、数人を残してその場から離脱した。
「どこ行くんだ?」
 走りながら近くにいた男に聞いてみたが、胡散臭そうな視線が返ってきただけで答えはなかった。
 しばらく行くと人が住んでいない、かなり古い一軒家が見えてきた。
 一団は全員その家へと吸い込まれていく。
ユウゴとユキナも後に続く。

 家の中には家具も何もない。
埃っぽい空間には、所々蜘蛛の巣が張っている。
とてもこの一団がアジトにしている場所とは思えない。
 しかし、彼等はまっすぐ奥へと進んでいった。
 一番奥のドアは頑丈な作りで、いくつも鍵が付けられている。
それを一人の男が順番に開けていく。
 ようやく開かれた先には、真っ白な壁に包まれたきれいな部屋が広がっていた。

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