《MUMEI》

おれの家の前まで来て、おれは蓬田の手を離した。



「…じゃ、」



どう説明すればいいかわからずに、
そのまま立ち去ろうとすると、



「待って!!」



案の定、呼び止められた。

…そりゃそうだろう。
訳わかんねえもんな。



「…なにか、あったの??」



振り返ると、蓬田の心底心配そうな、不安げな表情。


…おれの顔だから、何か笑える。



「…サングラス、どうしたんだよ」



全く関係ない話をふる。



「え??…あ、あれは取られちゃって―…」


「そっか。…まあ、
変だったから逆に良かったな」


「………」



おれが笑っても、蓬田は不安な表情を変えない。



おれは、小さくため息をついた。



「…疲れたからさ、何か」



嘘をついた。



「…え??」


「―…ほら、引き受けといて何だけど、
やっぱバカバカしくなってさ。
何でおれが、お前のくだらねえ恋愛ごっこに
付き合わなきゃなんねんだ、って」



少し笑いながら言って、蓬田を見ると、
驚いたような、哀しそうな目でおれを見つめてきた。



…んだよ、そんな目で見んなよ。



「…だから、悪いけど今日はこれでお開きな」



おれは目を逸らし、ちょっと大きな声でそう言って、踵を返した。



蓬田は、何も言わなかった。



悔しくて、拳を握り締める。



…自分でも分かってる。

くだらない言い訳だ。




…でも、じゃあ他になんて言えばよかったんだよ??


お前の大好きな先輩は、サイテー男でしたっ、てか??



―…んなこと、言えるわけねえだろ。





好きなやつに、そんな最悪なこと、





…言えるわけねえ。



誰か教えてくれよ、
誰も傷つかない言い訳。


…おればかだから、上手い言い訳なんて、思いつかねんだよ。

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