《MUMEI》

「―………え、」



わけが分からないと言う様に、
蓬田が小さく声を発した。



「…聞こえなかったのかよ。
おれがやったんだよ、あの西城先輩の怪我」


「椎名くん…??―…何言って」


「昨日も言っただろ??なんかもう、全部めんどくさくなったんだよ」


「…う、うそでしょう…??」



気の抜けたような顔で、
震える声で言う蓬田の瞳には、涙が浮かんでいる。



「うそじゃねーよ、
最初に正拳突き、次に後ろ回し蹴り。
…お前の身体だし、
空手、最近やってなかったからかなり威力落ちたけど」



そう言って、おれは少し笑った。



「…鼻、折れたかもな。多分軽い脳震盪も起こしただろ」


「………!!」



蓬田の瞳から、涙が零れ落ちた。


おれは、堪らず目を逸らす。



…泣くなよ、


何も言えなくなるだろ。



「……なん、で…??」



辛うじて聞こえるくらいの、小さな掠れた声。



「…なんでって、―…つまんなかったからだよ。
なんかアイツ見てっと苛々してさ」



へらへらと笑っておれは続ける。

言葉が勝手に出てくる。



「…あんなつまんねえヤツ、
付き合ったって面白くねえって」



蓬田は、黙って涙を流し続けている。



「…なんかムカついたから殴った、それだけだ」



ぱしっ!!



頬に鈍い痛み。



「…それだけで、…ひと、を、傷つけたの…??」



しゃくりあげながら、蓬田がおれを睨んだ。

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