《MUMEI》

頬をぶたれたおれは、
そのままの姿勢で蓬田の言葉を聴く。



「…どうしちゃったの、椎名くん…。
大好きな空手で、ひと
を傷つけるなんて…」


「…るせえな、疲れたんだよ」


「…でも、だからって関係ない人を…!!」


「るっせえな!!!」



おれの怒鳴り声に、蓬田は目を見開いた。



…なんだよ、その目。


怯えてるような、目。


わかんねえのかよ。


…お前が好きなのは、サイテーな男なんだぞ。



「…おれの何がわかんだよ。
―…お前も、男ばっか追いかけてんじゃねーよ」



『おれ』の…蓬田の顔が真っ赤になった。



「…サイテー!!」



蓬田は、おれに大きな声でそう言うと、
保健室を飛び出した。



1人取り残されたおれは、
力が抜けてベッドに腰掛けた。



サイテー、か。



最低だ、ほんと。



結局、蓬田を傷つけたのは―…


泣かせたのは、




最低な、おれだ。



最低すぎて、笑えてくる。

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