《MUMEI》
隠れる場所
 「いらっしゃい、三人でお泊りかい」
 貧相な店とは対照的に丸く肥えたおばさんは、顔の肉をよせ笑う。
 「一番安い部屋をお願いしたいんですが、だいじょうぶですか」
 中を見回すファースとクレア、かわりメリルがおばさんと会話をすることになる。おばさんは声をあげて笑った。
 「ここは全部同じ料金さ。いい部屋なんて一つもないからね安心しな。うちはぼろさと安さが売りなんだ」
 あまり自慢できたことではないことを誇るおばさん、メリルも愛想笑いを浮かべることしかできず、話をそらした。
 「それじゃあどこでもいいのでひとつお願いします」
 「あいよ、部屋の利用は何日の予定だい」
 え? 彼女はつい聞き返してしまった。
 (やばい、何にも考えてなかったどうしよう。怪しまれない回答。なんだろう・・・ほとぼりが収まるまでは隠れてなくちゃいけないし、かといって長期間泊まってて一歩も外に出ないのも逆に怪しまれる、ここは曖昧に答えとこう)
 「えーっと、それがまだ決まってないんです」
 冷や汗が垂れはじめた、こういうとき嘘をつくのが苦手な自分が恨めしく思えてきた。
 「ふーん、じゃあ決まってからでいいよ、決まったら知らせておくれよ」
 「はい、それはもちろんです」
 言いつつメリルは内心ほっとしていた。事件が起きたあと三人組が現れて、予定の決まっていない宿泊。明らかに怪しいと思うはずだった。
 だがほっとしているのもつかの間のこと、おばさんが核心に迫った。
 「そういえば、よく見ればあんたたち子供だね。親はどうしたんだい」
 メリルの顔が凍りつき、心臓が跳ねた。
 (どうするのわたし。怪しまれるわ、てかもう怪しんでるかも。なんとか嘘を繋げないと・・・)
 メリルは顔を隠し、泣きマネを始めた。
 「じ、実は私たち兄妹の両親はとってもひどくて・・・・父は朝から晩までお酒に酔い潰れ、私たちを見ると暴力を繰り返してきて・・・・母は父とは別の男と関係をつくり・・・・だから・・家を出ようって、三人で決めて・・・・それで・・」
 複雑な家庭事情をねつ造するメリルだが、突っ込みどころは満載だった。弟と妹は先ほどから楽しそうに会話をつづけているし、顔は似ても似つかない。普通は騙されないであろう。しかしおばさんは違った。
 「そうなのかい、ごめんなさいね。嫌なこと喋らせちまって、そんな気は全然なかったんだよ」
 騙され、おばさんは鼻をすすっている。これほど下手な芝居とそれに騙される人はいないだろう。
 メリルは達者とは言えない演技を続けながら顔をあげる。
 「いえ、いいんです・・・」
 「がんばるんだよ、おばさんあんたたち兄妹を応援してるからね、それじゃあ部屋に案内するからついておいで」
 なんとかこの場を切り抜けることができたメリルはこっちの気も知らずはしゃいでる二人に声をかけおばさんの後をついて行った。

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