《MUMEI》

「何で私、金本くんのこと……好きになっちゃったの?」


そう言って欄チャンは涙を流し始めた。




……そう。



欄チャンには僕の声は聞こえない。

僕の心は届かない。


どんなに大声を出したって、どんなに強く思ったって僕の想いは欄チャンに……伝わらない。


僕が笑ったって悲しみに暮れたって欄チャン達人間には分からない。


僕達ぬいぐるみには気持ちを伝える手段がないんだ。


どんなに欄チャンのことを思ったって目の前で涙を流す欄チャンを励ますことも出来ない。


震える体を抱きしめることさえ叶わない。


ただ欄チャンの頬を伝って落ちてくる雫を受け止めることしかできない。


(葵のこと大切なのに、金本くんに話しかけられて幸せを感じてしまう自分が許せない……


金本くんを目で追ってふとした瞬間に好きだと思ってしまう自分が嫌い)


悲しいくらいの欄チャンの心の叫びが聞こえてくるのに、僕には何も出来ない。


そんなの心の声が聞こえないのと同じじゃないか……。


僕は幸せそうに笑う欄チャンが見たい。


そのために僕に出来ることがあれば何だってやりたいのに……


何で僕はぬいぐるみなんだろう?


どうして僕はこんなに無力なんだろう?


ねぇ神様?


もし聞こえているなら僕の願いごとを叶えて…?


1つでいいから僕のお願いを聞いて?


僕はどうなったっていいから、欄チャンの側に居られなくなってもボロボロになって捨てられたって構わないから


……どうか、




どうか欄チャンが幸せに満ちた日々を送れるように――毎日笑顔で過ごせるようにして下さい。


僕は欄チャンの膝の上で、神様に願うことしか出来ない……。


欄チャンは泣き疲れてしまったのかベットに倒れスヤスヤと寝息を立てて眠り始めた。

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