《MUMEI》

「……あ。」


「おはようございます」


「ごめん、寝てた。」

安西が頭上に見える。
長椅子で横になっている俺を待っててくれたらしい。



「くちから、ヨダレ出てますよ」


「……っあ、」

恥ずかしい。
病院を出る頃には日も沈みかけていて、
言いようも無い不安も腹の底からうねり、潜んでいった。


「変な感じですね。先輩の横は、ウチ先輩だとばかり思ってましたから。」


「俺だって色んな奴と帰るよ。東屋とか……あ、そうだ水瀬ってクラスの女子がさ……」

そうだ、どうやって安西に不信感を抱かれずに水瀬と接点を作ればいいんだ?


「あ、ガーベラ……」

安西が花屋で足を止める。


「花粉症なのに?」


「母の好きな花なんで……今日が誕生日だった。」

安西は両親が離婚して父子家庭だ。


「桃色のガーベラ綺麗……」

他愛もない話、
安西は花屋に入って行く。

片手には桃色のガーベラ。

気障っぽい、でもあまりにはにかんで差し出すのでしょうがない気もしてきた。

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