《MUMEI》
激怒
くの一が飛ぶ。手裏剣が来る。ドエス魔人は機敏に交わすと、空中でくの一を捕まえてしまった。
「不覚!」
手足をぐるぐる巻きにして怪しい笑顔のドエス魔人。
「ぐはぐはぎひひい。不覚はこれからよん。たっぷりかわいがってあげるから覚悟しなさい」
残り一本の舌が生き物のように動く。
「まずはお顔を拝見!」
もがく女忍者の覆面を容赦なく剥ぐ。白髪混じりのたなが睨みつけた。
「嘘」魔人は露骨に失望した。
「お師匠さま!」麻美が叫ぶ。
魔人は「いらない」とたなをポイ捨て。
「どわあ!」
ドボーン!
川に放り投げた。
「貴様!」
怒り狂う麻美を、魔人は余裕の笑顔で見下ろした。
「お嬢、またいじめられたい?」
魔人の笑顔に腹が立つ。しかし捕まって屈辱的なことをされても意味がない。麻美は額に汗を滲ませ、魔人を睨むしかなかった。
「お嬢、相手してあげてもいいけど、今度は本気出すよん。謝るまでおなかをボンボン殴っちゃうよん。いいの?」
そんなことをされたらたまらない。麻美は躊躇した。
そのとき。
川から怒り心頭のたながポセイドンのごとく現れた。
「許せん」
激怒の目で陸に上がると、たなはドエス魔人に歩み寄った。
「五十はまだ若いのにこの侮辱は万死に値する」
「何をつべこべ言ってるのおばあさん」
「お…おばあさん?」
おばさんでも失言なのに、おばあさん。たなは殺意が湧いた。
「黙れけだもの!」
「黙りなさい老婆」
「ろ、老婆?」
たなは怒りの火柱が天に向かい、雲を突き破った。
「泣かす!」
激走。まさか顔面正拳突きは魔人も予想していなかった。
「NO!」
一発で巨大が倒れ、麻美は驚いた。彩も目を覚ます。
「ちょっとたんま!」
「何がたんまだあ!」
たなが上から拳を叩きつけてさらに踵落とし!
「痛い!」
慌てて立ち上がるドエス魔人だが、顔面への怒りの鉄拳で再び倒された。
「嘘…」
起き上がろうとするところを思いきり顎を蹴り上げる!
「だあ!」
魔人は血を吐いて倒れた。
麻美と彩は目を丸くして驚き、後頭部に一滴汗をたらしながら見ていた。
「わかった、許してくんろ」
「麻美、剣をよこしなさい」
「はい」
魔人は蒼白になった。
「わあ、たんま、命だけは!」
「問答無用!」
真剣なのに、面! 胴! 突き! こて!」
「死むう!」
魔人は血まみれ。
「彩、手裏剣を貸しなさい」
「はい」
「帰るから、帰るから、それだけは!」
「黙れ!」
手裏剣が魔人を襲う。
「ぎゃあああ!」
ドエス魔人は虫の息。
「麻美、こいつを許すか?」
たなに聞かれ、麻美は囁いた。
「今すぐ色魔界に帰り、二度と人間界に出没しないと誓うなら、命だけは助けてあげてもいいと思います」
すると、たなは意味ありげな細い目で麻美を見た。
「ひどい目に遭わされた割には随分優しいではないか麻美。さては、虜にされたな?」
心外な言葉に、麻美は真っ赤な顔をしてたなから剣を奪おうとした。
「冗談じゃありません。ならばこいつを一刀両断にしてみせましょう!」
「冗談じゃ冗談」たなは必死に剣を掴んだ。
「彩はどうだ?」
「はい。許せませんけど、殺して仲間が大勢復讐に来るのは危険過ぎます」
「落とされたな?」
「落ちてません!」彩は真っ赤な顔をして否定した。
「失神していたみたいだが」
「ふりですよ、ふり。ならいいですよ。こいつの息の根を止めて私の激怒の心を証明します!」
そう言うと彩は、小刀を出して投げようとした。
「わかった、やめい!」
たなは慌てて止めると、魔人を睨む。
「ドエス魔人。聞いたか。本来は許さないところだが、反省し、謝罪したことも考慮に入れ、二度と現れないことを条件に、色魔界へ帰ってもよろしい」
魔人は笑顔になると、林に消えた。
「また来るもんね」
たなは二人に言った。
「帰るぞ」
「申し訳ありません」麻美は謝った。

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