《MUMEI》
守るために必要なこと
 「どうしたの、ファースくん。もしかして気分が悪いの」
 ずっと天井を眺め続けていたのを見ていたクレアが心配そうに声をかけてきた。掃除をしていてファースがいつもと違う感じに気づいたのだろう。
 その声は怯えたようにか細く、声をかけたことを怒られるのではと身構えている。
 いつも邪険に扱っているせいなのか、と思い苦笑いになってしまった。
 「いや、いたって健康だよ・・・ありがとう、心配してくれて」
 そう言って、クレアの頭を撫でていた。
 「・・・えへっ」
 クレアが頭を撫でられるのを拒むことはなかった。むしろいつまでも撫で続けていてほしいという風にも見えてしまう。
 照れを隠すクレアの表情が可愛らしく思ったが、いつまでもそうしているのも恥ずかしくなってきて、いつものようにあしらってやる。
 「いつまでごろごろ言ってんだ」
 ぐりぐりと撫で、わざとらしく引き離す。
 「撫でられたからって気持ちよさそうにするなよな。まだ掃除終わってないんだろ、戻らないとメリルに怒られちまうぞ」
 「わかった。もう元気なくしたりしちゃダメだよファースくん」
 ファースがいつもの調子に戻り安心したクレアは笑顔のままメリルのもとへと駆けていった。
 楽しそうに笑う二人を見つめながらファースは心の中で悩んでいた。
 あの感覚がまたいつ襲ってくるかわからない不安。もしそのとき二人がいて、二人を標的にしてしまったら・・・考えるだけで苦しかった。

 だから、決意が必要だった。自分の考えを貫く決意が。

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