《MUMEI》

先輩、いるかな…


音楽室のドアの前まで来た時、声が聞こえた。



「最悪だよ、もう。
鼻折れるとこだったってー」



…西城先輩の声!!


私は慌ててドアの影に隠れた。



「災難だったなー、浩太」



他の先輩もいるみたいだ。



「まじ、最初っからそっち行っとけば良かったー!」


「お前が可愛い後輩いるからって断ったんじゃん、合コン」


「…だーから、あんな暴力女だと思ってなかったんだよ!!」



…『暴力女』って、私―…椎名くんのこと…??


合コンって…?



「おまえが襲うからだろー??」



…え…??



「だってよぉ、顔は可愛いし、俺のこと大好きそうだったし??
ちょっとは遊びなれてんじゃないかと思ったのー」


「―……っ!?」



声を上げそうになり、慌てて口をふさぐ。


…先輩の声だ、確かに。



「ってか、浩太遊べる女いっぱいいんじゃん」


「やー、たまには気分転換?みたいな??」


「うわ、うぜー!!」



下品な笑い声。


…気分が悪くなってきた。


…これが、先輩の本当の姿…



「ってかさ、聞いて!あいつチョー笑えんの!!
何かめっちゃキレてさ、
『謝れ』だの、
『蓬田がどんだけアンタのこと好きか分かんねえのか』だの、騒いでさー。
…ばっかじゃねえの??
自分の名前苗字で呼ぶとかうける」



…椎名くん、だ。


椎名くんが、私を守ってくれたんだ…!!



胸が苦しくなると同時に、怒りがこみ上げてきた。



―…一体、椎名くんに何をしたの。



私は、音楽室のドアを勢いよく開けた。

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