《MUMEI》
彼女たちを想うが故に
 部屋の掃除は終わり、二人の頑張りが部屋を輝かせていた。
 「やっと終わりました」
 きれいになった部屋を雑巾片手に満足げに見て、クレアが笑う。
 「やっぱり部屋はきれいなほうがいいよね」
 「ええ、もともとすごい汚かったから余計に気持ちいいわね。ファースもすれっばよかったのに、この爽快感、たまらないわよ」
 雑巾を濯ぐ手を止めず掃除をただ見ていただけのファースに言った。頭の後ろで手を組みダルそうにしている。
 「俺は別に見てるだけでいいよ、何もしなくてもきれいになってくの気持ちいいから」
 「そんなこと言ってると一人になって後悔するわよ。あ、クレア雑巾貸して私が返してくるから」
 クレアの絞った雑巾をもらい、ふたつに畳む。
 「へいへい、これから気をつけるよ」
 気のない返事をしてメリルの横をとおり、ファースはベランダへと出て行った。
 ファースの姿を追いながら、
 「ほんとうにわかってんのかしら」
 全然わかっていなさそうな彼を心配する。しかしこれ以上言ったってわかってくれることもないだろうから、
 「それじゃ行ってくるわね」
 そこまでにした。
 テーブルに花を飾っていたクレアが部屋を出ていくメリルに手を振り、送る。
 「うん、いってらっしゃい」
 部屋を出たところでふり返り、自分に手を振ってくれる少女に笑顔で返しドアを閉めた。

 ベランダに出て彼女たちの笑顔を見ていると、平和だと錯覚させられる、現実は真逆なのに。これからのことはまた後で考えようと思ってしまった。

 苦しい思いをしてきたばかりなんだ、すこしは間を置いたほうがいいよな。

 なにも嫌な、苦しい思いだけをしなくてもいい。楽しい時もあっていいのだ、いまはそのとき。ファースはそう思うようにした。これから無理やりにでも引きずり込まれていくのだから。

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