《MUMEI》
封印
「ただいま…」
「お帰りなさい修平」
台所に立つお袋。振り返る事もなく包丁を動かしている。

冷蔵庫からペットボトルを出し、飲みこみながらダイニングテーブルにつく。
無言でテレビの天気予報を見ていると、お袋は火を止めて振り向いた。



「修平、今日ね、浩二さんから久しぶりに電話があって」
「………うん、そうなんだ」

お袋は俺の正面に座る。俺はテレビから視線をそらした。


「9月からイングランドに転勤が決まったらしいの」


「……イングランド…」



浩二……とは元義父、勇樹さんの父親だ。
元々は転勤族だったが勇樹さんの母親が自殺してからは近辺しか移動がなくなっていた。


それは、勇樹さんが心の病にかかってしまったから。





一人になれない彼のために、俺のお袋と再婚した。

勿論恋愛感情があった上の事で、俺はきちんとそれは理解している。
親子二人、なんでも打ち明けあって今まで生きてきたから。

「どうしても今回ばかりは外せないらしいの、それでね、その前にもう一度籍を入れて欲しいって…、また家族になって欲しいって……」

「…………」


「………」



「修平は…、どうなの?勇樹さんにあの事は話せたの?」



「いや…、全然会えなくて…、そもそも学年違うし、なかなか…」


「……そう…」

「お袋がやり直す事には俺は反対しない、お袋の人生だ、もう俺達の事は気にしないで幸せになって欲しい…、好きな人と離れて暮らすなんて…、こんな辛い事はない」


俺は立ち上がり脱衣所に足を向ける。




「ありがとう、修平」


「……ああ」



「修平は?今のままで良いの?浩二さんはもう分かってくれてるのよ?」



「…………風呂、入るから…」

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