《MUMEI》
団長の部屋
「僕みたいな獣人が守護騎士って変だと思う?」
思いついたように狩月に質問をする。相変わらず先を歩いているので表情は見えないが空を見上げている。狩月はなんと答えればいいのか分からず黙っている。日が完全に落ち、代わりに空には月が浮かんでいた。
「ごめん。変な事聞いて。忘れてくれて構わないよ。」
わずかに間を空けてからバンプがそう言った。慌てて話題をそらしたようにも見え、狩月は答えることができなかった。しばらく進み建物の中へ。
豪華ではないがきっちりと掃除され、清潔感が漂っている。壁には明かりが灯り、ゆらゆらと光を発していた。バンプはさらに奥へ進み一つの扉の前で、
「この部屋で待ってて。すぐに彩も来るだろうし・・そだ!!式夜に言われて君を殴りそうになったの秘密にしておいてね!!彩って優しそうなワリに怖いんだよ〜・・この前なんか尻尾を思いっきり踏まれたし・・」
あれ痛かったなぁ〜・・そういえばこんなことも・・どんどん思い出しているようだった。
「言いません。って・・聞いてますバンプさん?」
「へ??あ!!うん聞いてるよ。そっか・・よかった。」
安堵したようにほっ、と息をもらす。
「それじゃ僕はこれで。またね〜」
そう言ってすたすたと来た道を戻って行く。遅れるように踏まれたと言っていた尻尾がぱたぱたと揺れている。
廊下に立っているわけにもいかず、ドアを開け中に入る。
(ええええ・・なんだこれ?)
声を出さなかったのが不思議なくらいに部屋は荷物で一杯だった。足の踏み場が無い、正にその通りの部屋である。そんな中で唯一、整理整頓されている一角があった。一角の壁際に置かれているのは二つの白銀の甲冑、一振りの剣、一張りの弓と矢筒。足元の物を踏まないように慎重にその一角に近づく。良く見ると左に置かれた甲冑には多くの傷や凹みが見える、そして丁度心臓の部分に大きくえぐれ、穴が空いていた。その周りには赤黒い汚れがついていた。
(血・・なんだろうな・・)
そんなことをぼんやりと思う。
「ふぃ〜終わった、終わった〜っと。」
そんな声と共にドアが開かれる。
「お待たせ〜狩月!って何見てるの?」
よっ!とでも言うように手を上げて入ってきたのはこの部屋の主、彩詩であった。狩月が振り返り、何かを言うよりも早くがっ!と肩を捕まれ、奥の部屋へと連れて行かれる。
バタン!!!
ドアが壊れるのでは?と思うような大きな音を立てて扉を閉める彩詩。
「君は何も見てない!!!いい?見てないんだよ!!足の踏み場も無いくらいに汚れた部屋なんて見てないんだからね?」
慌てた様子で狩月に言いまくる。その眼が笑っていなかったのが非常に怖い。
勢いに押されてカクカクと頷く狩月に満足したのか手を離す。
「えっと・・ね?あんまり汚すと式夜が怒るんだよ・・団長としての威厳が!とか言って。」
「はぁ・・あ、あの彩詩さん昼間は色々迷惑かけたみたいですみませんでした。」
昼間のことを謝罪し、守護騎士を見たかったという理由も話す。
「ふ〜ん・・こっち来たばっかりなんだ。で?どうだったかな、試合見てたんでしょ?」
「はい、そのバンプさんのお陰で良く見れました。お二人ともすごく強くて、正直ぼーっと見てたって言ってもいいくらいで・・でもすっごく綺麗で憧れました。」
照れたように会話を続ける。なんとか自分が感じたものを伝えようと必死のようだ。
「ふふふ。ありがとうね。」
嬉しそうに笑顔を浮かべる彩詩。

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